白帝通信
月に1回、情報誌の「白帝通信」を発行しています。
その中のコラムを抜粋してご紹介します。
ー2024年 12月号ー
習得のメカニズム
11・12月も暖かすぎる気候が続いています。いつも時候について書き始めるのですが、ここ数年は異常気象や温暖化に関するものが大半です…「温暖化ストップ!」というと(がんばればストップしてもとの状態に戻せる、いつか戻るはずだ!)というイメージですが、実は戻るどころかストップすることすら困難です。 いまのところ、どのくらい温暖化をゆっくりにできるか が現実的な目標になっています。生きてるうちに「温暖化が止まりました!」となるかなぁ…
さて、表題の習得について。まずは「言語」について考えてみましょう。日本語の語彙の総数は30万とも50万とも言われていて、中学生では2~4万語の言葉を知っているそうです。ものすごい数に感じますが、1つ1つの言葉を教えてもらったり調べたりはしていないはず。でも、どうして知っているんでしょう…?
言葉の多くは、本や会話などでその言葉に触れたときに、前後の関連性から推察して(こんな意味かな?こう使うのかな?)と、自分のものにしていきます。すべての言葉を勉強したわけではないのですが、自分でも知らないうちに使える言葉が増えていきます。日常生活に必要な言葉は 10000語に満たないそうで誰でも使えますが、それ以外の部分ではかなり差が大きいようです。「やばっ」「すごっ」ばかり言っている子などは(大丈夫かしら…)と思ったりして…
そういう無意識の習得は、言語以外でも行われています。「弟子が師匠の技を見て盗む」ではありませんが、特定の状況を繰り返すうちに、教えられていないことでもできるようになったりします。そういう習得が得意だと、どんどん知識や技能が身につきます。必要なのは 「好奇心」「注意力」「自負心」。興味を持って、周りをよく観察して、自分ならできる!と思っている人が、実際にできるようになっていきます。
ただ 「興味をもって」「観察して」は、スマホの台頭で危うくなってるかも…と感じます。知りたいこと・思い出せないこと・不思議に思ったことなど、検索すれば一発で答えが出てしまうので、その答えを見た瞬間、興味も注意も消えてしまいます。仮説を立てて検証したり自分なりに考えたりしなくても、結果も理由もすでにネット上にあるんですね。速さと手軽さが、反対に仇になっています。もっと恐ろしいのは(ネットにある情報は結構間違えている)ということはご存じでしょうか…
だからこそ、考えて知識を身に付ける人と、結果だけ見て考えない人との差は大きくなっていくはず。労力をかけず、ササッと知ったことは忘れるのも早いかもしれません。でも、そんな学び方も習得の技術も、時代とともにかわるんでしょうね。「スマホが使えないときはどうするの?」と聞いたら「使えない状況にならないようにします」と答えが返ってきそう…
-2024年 10月号-
まずは始めること
9月も最終週になって、ようやく気温が落ち着いてきました。朝晩は涼しい日が多いですね。10月も30℃を超える日が続くそうですが 「30℃なら、まあ大丈夫かな」と思ってしまうあたり、判断基準がだいぶ壊れてきたかも…。秋分の日を過ぎているということは、もう昼よりも夜の方が長いんですよ…がんばれ!秋!
中学生のみなさんは定期テスト お疲れさまでした。中学3年生は、さすがに取り組みのレベルも上がってきて 点数の伸びも期待できるのではないでしょうか。テスト勉強では、この「取り組みのレベル」のことをよく言いますが 一体どこを見ているのか。それは、具体的な学習方法ではなく 姿勢や心構えから現れる、質問の内容・しつこさ・ていねいさ・精度・時間・回数・表情…といった総合的な勉強をしているときの様子です。
(そんな抽象的なこと分かるの?)と思うかもしれませんが、これは、ベテランの先生の心眼!とかではなく 白帝塾の非常勤の先生でも 「○○って最近がんばってるよね」といった話をすると、同じように小さな変化でも感じ取っています。教える人から見るとすぐに分かるんです。
では、その変化はどこから来るのか。とても単純ですが 「成績を上げよう・点数を上げよう」という心構えです。自分の中で、そういう決意や気持ちを持ったときに、それが普段の勉強ににじみ出てきます。その上で定期テストでよい点をとると、すぐに通知表の評定が上がったりします。前の段落の話は、もちろん学校の先生も見ていますからね。
そうは言っても 「心構えを変えなさい」「はい。わかりました!」とは、なかなかいかないもの…。そこで 小さなステップとして、一問一答のテストの取り組みから改善してみましょう。やることはシンプルで、塾に来る前に10分×2回くらい暗記をすること。塾の授業の前に先に準備をしておく、というのがポイントです。10分くらいの時間は忙しくてもつくれますし、1回10分ならそれほど大変ではないはず。大変なのは、そのことを忘れずに 面倒だと思う気持ちを押さえつけて 継続して準備をすること。「まず始めること」が、実は一番大変なんです。
それが続けば、それだけで1つレベルアップと言えます。勉強には 特別な方法や効率的な方法はありません。学年1位をとる人でも 用語を暗記して・問題を解いて・間違えた答えを覚えて…と、ごく普通の勉強をしています。ただ、違いがあるなら「まず始めて」「ちゃんと続ける」こと。本当に些細なことを、少しずつ積み重ねているだけです。「まず始める」ことは、ちょっとがんばれば、きっとできるはずです。
-2024年 8月号-
セルフチェックという考え方
しかし、暑い…「最高気温が39℃」とかホント勘弁してほしいです…天気予報の気温はどこで測るか知ってますか?答えは「風通しの良い、直射日光のあたらない芝生の上」 そよ風の吹く木陰が39℃ということは、アスファルトの上とかどうなってしまうんでしょう…日中はインドア生活ですね。
今月は、セルフチェックという考え方について。そのまま(自分でチェックをする)という意味ですが、勉強をする上ではとても重要です。学力の伸びに直結すると言ってもいいくらいで、それだけにできるできない の差が大きいです。「最近、勉強の仕方が良くなってきた」「時間をかけた分、点数を取れるようになってきた」 そんな伸び方をしている人は、セルフチェックのレベルが上がっていたりします。
セルフチェックができているか?の差は答え合わせの仕方にはっきり出ます。○付け→正しい答えを書く→×の理由を考える→解説を確認→もう1回解く が○付けの順番でした。このとき、客観的に自分で自分の答えをチェックするのがセルフチェックです。客観的というのは (誰かほかの人の○付けをして教えてあげる)くらいのイメージでできると、よいかもしれません。
小学生のドリルなどは、まさに、このセルフチェックの練習の場になります。反復して計算力や漢字力をつけるとともに、自分の解いた問題を冷静に見る力をつけることができます。この力が高まると、だんだん勉強が主体的なものになって、学年が進むにつれて勉強の質を上げることができます。
受験生は、自分の実力も冷静にチェックする必要があります。過去問を見れば問題のレベルや形式は分かりますから、①できてる問題 ②できない問題 ③頑張ればできそうな問題 と分析して、合計点数を上げる方法を考えます。状況に合わせて科目や単元を決めて、勉強する時間や優先順も考えていくのが理想です。
先生もセルフチェックをします。自分で解いた問題で (どうしてこの問題は×に至ってしまったのか?)という原因を考えます。・解法自体が違う ・問題の見立てを間違えた ・知らない発想だった…そういう原因を1つずつ潰して、正解できる可能性を高めていきます。「初めての問題を見ても、正解できる・教えられる」 ということが前提のセルフチェックで、高校3年生くらいだとこれくらいやる人が出てきます。
このセルフチェックは一生学んでいくうえで、かなり重要です。この力の続きは
・自分で買ってきた問題集を自力で解く ・自分が取りたい資格の勉強をする ・自分自身の仕事の仕上がりを客観的に見て精度の高いものにする…と、いろいろな場面につながります。やっぱり、今の勉強は未来に備えた訓練なんですね。将来
(あの時の自分を褒めてあげたい)となったら素敵かもしれません。
ー2024年 6月号ー
学習塾今昔物語
先週は中学の修学旅行が集中しましたが、天候はイマイチな感じでしたね…大雨・真夏日・台風と時季外れの多いこと…まあ、二泊三日の日程ですから3日とも快晴!はなかなか難しいのかもしれません。
さて、今月は学習塾のお話。先生が子供の頃にも学習塾はすでにたくさんあって、だいたい2人に1人くらいは塾に通っていたかなぁ と思い出します。当時の塾は、学校の授業をより丁寧に教えて、理解を深める・勉強に対する意識を高める、そのあたりが目的だった気がします。
その後、点数や順位を上げることが期待されて 「やるからには結果を出さなくては!」という流れが強まりました。中学生の塾だと、高校受験がゴールになりますから「より良い点を!順位を!優秀な高校に!」という意識が強かったはずです。
お父さん・お母さんの世代だと(そんなの当たり前じゃん…?)と感じるかもしれませんが、当たり前も時代とともに変わっていきます。高学歴→良い会社→良い人生 を目指しての詰め込み教育やストイックな勉強は、今や絶滅危惧種です。ここ30年くらいで、終身雇用が崩れ、右肩上がりの成長が止まり、日本は世界最先端のお年寄りな国になってしまいました。
大勢で同じ方向を目指して突進していくイメージではなく、個々人の幸せを目指す方向にシフトしていると思います。そういった価値観は勉強の場にも持ち込まれています。個別指導の学習塾が増えて、学校では「自由進度学習」なるものが登場し、通知表はずっと前から絶対評価に変わっています。勉強が得意な子も苦手な子もいますから、それぞれのベストを狙うことが理想の目標になって、競争する意識はだんだん薄れています。
教育が変われば考え方も変わります。最近、とても衝撃を受けたのですが、保護者の方が 学校の先生から「是非、塾に通うことをお勧めします!」と言われたそうです。私が塾の先生として若手だったころは塾を嫌う学校の先生がたくさんいました。先ほどの点数・順位至上主義ではありませんが、先生ごとの過去問を研究し、○○先生対策のプリントをつくり、塾内平均87点!とか叩き出していましたから、そりゃあ学校の先生としては面白くないだろうと。
ところが時代が回って、そういう教育で育った世代が、今、学校の先生になっていますから「是非、塾に行ってね!」
となるんですねぇ…。非難する気持ちはまったくありません。ただ、自分が衝撃を受けたこと自体 (世代ごとの価値観を表してるのね)と思ったわけです。業界としては、塾は「先細りだ…」といわれていましたが、細分化したなりのニーズがまだまだ続きそうです。
ー2024年 4月号ー
レベルアップの楽しさ
今年は桜の開花が遅れているようです。暖冬だから早くなりそうなものですが、3月は冷え込んだ日があって積雪もあって、その影響のようですね。コロナ自粛も過去のこと…今年はしっかり堪能できそうです。
3~4月は体験学習から入会してもらった人が多くて、何人かは 「塾は楽しい!」という感想を持ってもらえたようです。親御さんから見ると 「勉強が楽しいなんて…ホントに⁉」と驚かれることが多いのですが、実は結構あることなんです。
体験学習の間には、できるだけ (ちょっと先に習うこと)や(今までできなかったこと)などを教えて 「新しくできるようになったこと」を身につけてもらうようにしています。勉強は日々繰り返しているので忘れがちですが、新たに何かを身につけること・レベルアップすることは、もともと楽しい!のです。自転車に乗れるようになったとき、クロールで25m泳げたとき…やっぱり楽しかったはずです。
そういうわけで、比較的学年の小さい子の方が 「楽しい!」という感想が多い気がします。学年が進んでくると、単純に楽しい!とはなりにくいのですが、今度は 「こういうプロセスを経て、こういう勉強の仕方をするとレベルアップにつながるよ」ということを教えます。具体的な知識でなくても、正しい勉強法や、自分の現状がどうなっているのか…を知ることもレベルアップの予感につながり、楽しく感じるようです。
「勉強の仕方」というと、問題集を暗記する…自力で正解できるまで繰り返す…忘れるころにもう1回暗記をする…などなど具体的な方法を想像すると思います。でも 「自分の力で正解できるものを増やす」ことができれば、実は方法は何でもよいです。反対に言うと、勉強の目的をつかんでいないと何をやっても効果はうすいですね。先生が教えることは、現状に対してもっとも効果が高いと思うことを教えています。
そういう 「できることを増やす勉強」の習慣は学力のレベルに関係なく、できている人はできています。工業高校に進学した子でしたが 「塾のおかげで勉強の仕方が分かりました」と言ってもらえたときは非常にうれしかったです。高校でもいろいろ資格をとりまくってました。そういう勉強の仕方は、考え方・習慣として一生の財産になります。英単語や数学の公式が将来役に立つかは知りません(問題発言?)。でも、レベルアップする方法とその楽しさは、いくらでもどんなことにも応用がききます。
小中高校生の間はどうしても勉強しなくてはなりません…でも、どうせやるならレベルアップを意識して、できることを増やしていってくださいね。できることが増えていくと人生も豊かになるかも…今年度も皆さんの成長を期待します。